● 末梢神経損傷
   (Peripheral Nerve Injury)

【原因】

 切り傷、すり傷、圧迫、打撲、牽引などの物理的作用によるものと、高熱、低温、電気、放射線など、さまざまな原因によって末梢神経が損傷を受け、その損傷の程度によっていろいろな神経麻痺がおこる状態を言います。損傷の程度は三つに分けられます。

1.神経が完全に切れている場合は、手術をしなければ神経麻痺は回復しません。鋭い刃物やガラスで切ったり、刺したりした場合の麻痺は、神経を切断していることが多くあります。
2.神経の信号を伝える働きのある、軸の部分の連続性が切れていても、その軸を包んでいる鞘の連続性が残っている場合があります。

 この様に、神経が部分的につながっている場合は、1日に約1oメートルの割合で、自然に回復することが多くあります。
 打撲や骨折による場合では、この様な部分的損傷がよくみられます。

3.圧迫などで一時的に神経が麻痺しただけの場合は、神経は切れてはいません。部分的な変化のあったもので、数日から数週間で回復します。

【症状】

 損傷を受けた神経の支配する領域に、運動障害(手足の麻痺、筋力低下など)や知覚障害(痛み、しびれ、熱さ冷たさを感じないなど)、自律神経障害(発汗異常や皮膚の色変化など)となってあらわれます。
 また、神経によっては特有の症状を示すことがあります。

橈骨神経(手首から親指の感覚に関係する神経)の損傷では、下がり手と言って、手首から先がたれて力が入らなくなり、指も伸ばすことができなくなります。

尺骨神経(小指、薬指とそれらに続く手のひら部分の感覚に関係する神経)損傷では、日数が経ってからワシ手と言って、手の指が鷲の爪のように内側に曲がってきます。

正中神経(手のひらの親指側の感覚に関係する神経)の損傷では、細かい動作ができなくなり、進行するとサル手と言って、猿の手のようになります。

【診断】

 問診、視診、触診のほか、その神経の支配する筋肉の筋力検査、筋電図検査、皮膚の知覚検査などを行います。検査は定期的に行われ、症状の変化や神経の回復の徴候などを調べます。

【治療】

 一般外傷の全身的な処置がまず行われます。自然回復が望めそうな時は、薬物療法や、理学療法として温熱療法などのリハビリテーションが行われます。
 神経切断が明らかな場合は、手術が行われます。神経の損傷位置から、その神経の支配している筋肉までの距離をはかり、1日1oメートル再生するとして自然回復の日数を想定し、その日数までに回復のきざしがみられない場合も、手術が考慮されます。


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