● 脱臼

 関節と対応する骨の位置が正常の関係でなくなった状態を言います。関節面が、まったく対応していないものを完全脱臼、一部が対応しているものを亜脱臼と言います。
 原因によって、外傷性脱臼、先天性脱臼、病的脱臼(炎症性、麻痺性、痙性)に分けることができます。




● 外傷性脱臼
   (Traumatic Dislocation)

 関節に過大な力がかかったために、関節が通常の運動の限界を超えて、関節の袋(関節包)を破り、関節を作っている面がずれて正常な位置関係でなくなります。
 どの部分の関節にもおこりますが、顎の関節や肩関節、肘関節、指の骨の関節などに多くみられます。
 顎や肩の関節は何度も脱臼を繰り返す反復性(習慣性)脱臼や、自分の意志で脱臼させることができる随意性脱臼に進むことがあります。

【症状】

 関節の痛み、腫れ、運動障害、変形などがみられます。外傷性脱臼に特有な症状としては、弾力性の抵抗を示すバネ様固定がみられます。

【診断】

 問診(外傷の状況)、視診、触診、X線検査などを行います。

【治療】

 できるだけ早期に、関節を正常の状態に戻すこと(整復)が大切です。通常、徒手整復を行います。整復後1〜2週間の安静固定で、回復することが多いのですが、整復しないまま時間が経ち過ぎた場合や、関節部に骨折を伴う場合は、手術が必要なこともあります。
 固定を除去した後は、早めに運動を開始し、関節部が固まらないように注意します。また、膝や足関節の脱臼は、整復しても後に障害が残ることが多く、脊椎関節の脱臼では、脊髄を傷めていることも多いため、生命に関わることさえあります。したがって、整形外科医の診察を受け、整復前後にも十分な検査が必要です。




● 先天性脱臼/病的脱臼
   (Congenital Dislocation)
   (Pathologic Dislocation)

【原因/症状】

 先天性のものでは、先天性股関節脱臼が代表的で、骨頭とそれに対応する関節窩が、はじめから離れた所にできる場合と、胎内で脱臼する場合とがあります。
 病的な脱臼には、幼児期の骨髄炎や関節炎などが原因となる炎症性脱臼や、ポリオなどの神経麻痺による麻痺性脱臼、脳性麻痺による痙性脱臼があります。
 炎症性のものは、滲出液が関節包に溜まり、それを広げてしまうため、脱臼がおこる場合と、骨頭や関節窩、関節包を破壊しておこる場合がありますが、麻痺性、痙性のものでは、関節包は破壊されません。

【治療】

 外傷性でない場合、整復してもその原因によっては、位置の固定ができないので、原因となっている病気の治療、または関節包の縫い縮めなどの補助的手段が必要です。




● 先天性股関節脱臼
   (Congenital Dislocationof Hip)

生まれつき股関節にある骨盤の臼の形をした受け皿(臼蓋)の形が悪いと、大腿骨(ふとものの骨)の骨頭がはずれてしまいます。
 先天性の脱臼の中では股関節脱臼が最も多く、新生児の約0.1%程度の発生率で、女子(男子の4.5倍)に多くみられます。脱臼が両側にみられることも(約40%)あります。
 また、完全に脱臼はしていなくても、関節の状態が不安定で、股を開いたり閉じたりすることにより、外れたりおさまったりすることもあります。

【症状/診断】

 普通、新生児期に産院で先天性股関節脱臼の検査が行われます。
 両股関節と、両膝関節を90度に曲げた状態で、両下肢を開かせて、十分に開くことができるかどうか調べます。
 また、開閉運動をさせるうちに、ある角度で、大腿骨骨頭が外れたり、おさまったりする雑音や感触がないか調べます。
 片側の脱臼の場合、下肢を伸ばした状態で、長さの違いが見られたり、太もものしわが左右で違っていたりします。
 生後3ヶ月の乳児検診で、検査が行われるのが普通で、診察をして脱臼の疑いがある場合には、X線検査を追加して、確実な診断が可能です。
 乳児検診が普及した現在ではまれですが、歩行開始後に歩き方の異常から気付く事もあります。

【治療】

 新生児の場合、脱臼を手で整復できて、その位置が保てるようであれば、股を開いた状態に保てるようなおむつカバー(股おむつ)を用いて、下肢が自由に動けるような状態にし、下肢を無理に伸ばす事をしないようにして様子を見ます。
 整復した状態が保てないようであれば、両股関節と両膝を90度に曲げた状態で保つように、肩からバンドで両下肢を吊る装具(リーメンビューゲル)を着けます。約3ヶ月は続け、自然に整復されるのを待ちます。
 歩行開始後も整復されない場合は、関節造影をして、脱臼の原因を調べ、両下肢の牽引が行われます。
 それでも自然整復が望めない場合は、股関節を整復するための手術が行われます。
 長期にわたって定期的な健診を受ける事が必要です。


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